
作っているプロダクトについて悩んでいたとき、ある動画に出会いました。私が解こうとしている問題は、YC(Y Combinator)から見ても解くのが難しい問題だ、という内容でした。
その動画とYCの記事が言う「タールピット・アイデア」とは何か、そして自分のプロダクトにどう当てはまるのかを整理してみます。
- How to Get and Evaluate Startup Ideas | Startup School
- Tarpit ideas - what are tarpit ideas & how to avoid them
タールピット・アイデアとは#
タールピット・アイデア(Tarpit idea)とは、解決しようとする問題はもっともらしく聞こえるのに、実際のユーザー行動によって崩れてしまうアイデアのことです。優秀な人たちが何度も挑戦してきたのに、まだ誰も成功していないスタートアップのコンセプトですね。
市場に足を踏み入れるまでは堅実に見えます。ところが、やればやるほど良くならないのです。タール(tar)で満たされた穴に落ちたように、もがくほど深く沈んでいきます。
こうしたアイデアは、表からは見えない原因で失敗します。問題を解決する過程で、解決できない別の問題が次々と出てくるからです。つまり、そのアイデアの中には失敗させる隠れた要因が存在しています。
タールピットに共通して潜む要因#
動画と記事で整理されていた隠れた要因を、自分の言葉で書き直してみました。
- 存在しない行動パターン — こちらの想定ではユーザーがそう行動するはずなのに、実際にはそんな行動パターンがありません。
- 制御不能な獲得コスト — ネットワークを作るためのユーザー獲得コストが、とても払えない額になります。
- 理論上でしか成り立たない収益化 — 計算上は効果がありそうでも、実際には失敗する収益化戦略です。
- 始まらないネットワーク効果 — ネットワーク効果が回ってこそ意味がある機能なのに、その効果がそもそも始まりません。
- 完璧ではない市場タイミング — ただ、これはあまり関係ないのではないか、というのが私の考えです。
- 欲求と習慣の不一致 — ユーザーは「使う」と言いますが、実際には使いません。認識した有用性(欲求)が実際の行動(習慣)につながらないのです。
- 低い頻度と高い摩擦 — 習慣になるほど繰り返されず、獲得コスト(CAC)を改善できるほど使う機会がありません。重要そうに見えて、必ずしも必要ではないのです。
- 鶏が先か卵が先か — プロダクトはユーザーにとって価値がなければならないのに、価値がないのでユーザーが使いません。
- 社会的重力 — 気まずくて、遅くて、目立たないので、ユーザーは共有や参加を避けます。
- 収益化の蜃気楼 — エンゲージメントは高いのに、支払い意思や継続的な支出の意思がはっきり見えません。
- 創業者の問題 — 自分は問題を感じている気がしますが、市場が緊急に求めているわけではありません。
事例:友達と予定を決めるアプリ#
私が作っているプロダクトは、まさにこの領域にありました。動画が指摘する隠れた要因を一つずつ辿ってみると、こうなります。
遊びたい人が連絡する相手は、家にいたいかもしれないし、そもそも遊びたくないかもしれません。アプリは欲求を強制できません。そこからフレーク率(flake rate、参加すると言ったのに実際には参加しなかった人の割合)が生まれます。
計画が壊れるのは、人が諦めるからです。合意に至らなかった理由は、調整ツールが足りないからではなく、実際には誰かが望んでいなかったからなのです。約束は感情的な問題のほうが大きいのに、私は調整プロセスを問題視していました。重要度の低いことに集中していたわけです。
動画は方向性をこう提案しています。予定の作成機能から、言い訳を用意してやんわり断る機能まで、あらかじめ用意された選択肢と安全なデフォルト設定を提供すること。スケジュール調整を支援するより、社会的な現象そのものを重視すれば良くなり得る、と言っています。
収益化も簡単ではありません。収益化できる要素は予約販売くらいで、そのためには高い市場シェアが先に必要です。しかも、あるユーザーが退会すると、その友達も使う理由がなくなります。
そこで、こんな問いが残ります。
- 誰も実際に予定を決めていないとき、このサービスを開くこと自体が十分に楽しいだろうか?
- 社会的に非難されかねない予定(オールナイトのクラブ、ナンパ目的の飲み屋など)まで公開されてしまうのを、どう避けるか?
- 予定が決まる前でも価値を提供できるか?
- 誰も最初に使い始めないとき、どうなるか?
崩れる原因は四つ#
以上を先ほどの共通要因に当てはめると、四つに絞られます。
- 低い頻度 — 習慣になるほど頻繁には使いません。
- 行動の不一致 — 使うと言っても、実際には使いません。
- 獲得の罠 — ネットワークを作るための獲得コストが払えません。
- 収益化の幻想 — 参加はあっても、支払い意思が見えません。
タールピットを見つけたら#
タールピット・アイデアを抱えている人にとって、こうした動画は挫折させるために作られたものではありません。むしろ、やるべきことがはっきりします。
まず、失敗してきた理由を探して、隠れた要因を把握します。次に、その要因がなぜ重要なのかを理解します。最後に、その要因を諦めるのか、それとも乗り越える方法を探すのかを決めればいいのです。
もっともらしいアイデアほど、一度は「これはタールピットではないか?」と問いかけてみてください。抜け出すためのコストは、気づくのが遅いほど大きくなりますから。
If you do not change direction, you may end up where you are heading.
— Lao Tzu


